2016年9月6日火曜日

日本記号学会 編 『ハイブリッド・リーディング ――新しい読書と文字学』

日本記号学会 編
ハイブリッド・リーディング
――新しい読書と文字学


http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1486-7.htm


〈バベルの図書館〉化した宇宙で、〈書物〉を問う

 電子メディアの時代に〈書物〉の記号論を問うとはいかなることを意味するのか。
 電子メディアのセミオーシスは、書物のセミオーシスの何をいかに書き取り延長するのか。書物のセミオーシス(リテラルな文字化)が、デジタルな文字化によって二重化されるハイブリッド化の認識の回路において、〈記号の知〉はどのような変容を蒙るのか。

2014年5月に行われた日本記号学会「ハイブリッド・リーディング -- 紙と電子の融合がもたらす〈新しい文字学〉の地平」、遂に書籍刊行 !

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 いま世界では果てのない〈普遍図書館(Bibliotheca de Babel)〉が建設中で、人びとは〈顔の本(Facebook)〉によるお見合いで知り合い、〈家庭の頁(homepage)〉を単位に日々の暮らしを更新し、毎分のように文字列を〈呟き(tweet)〉合って生活している 。ほとんどの日用品は〈本屋(Amazon)〉が運んでくる。本屋が運んでくるモノはすべて〈本〉として分類され、世界全体が〈机の上(desktop)〉になり、本の数は日々爆発的に増殖し世界の机の上が異様に散らかっている。
 二十世紀には「グーテンベルク銀河系」のまぢかな終焉が預言されていた。だが、訪れたのは、〈超-グーテンベルク〉期である 。
 あらゆる生活場面で人びとは、〈本〉を読んでいる。地下鉄にのると、どの車両でも乗客は〈私本(アイホン)〉などの〈賢明本(スマートホン)〉を読んでいる。街角では、皆が古代ギリシャ人さながらに、〈私板(IPad)〉を持ち歩いて、カフェに腰をおろして、〈汝管(YouTube)〉をのぞき込んでいる。超-グーテンベルク期とは、ひとびとが寝食を忘れ、本を読むことも忘れて本を読むまでに本の文化が異常発達をとげた〈新人類期(Anthropocene)〉なのである。
 世界経済はいまハイパー出版資本主義の絶頂にある。本の生産・流通・消費こそが、この知識産業社会の基幹産業であって、消費、とは、〈読者〉を生産する活動である。〈本屋〉の提供する〈金取(Kindle)〉本によって、人びとは〈読者〉になる。一度読む消費者になると、次々に読むべき本が推薦(recommendation)されて、1時間以内に、〈本〉たちが〈人工蜂(drone)〉に載せられて運ばれてくる。〈人工蜂〉は〈地球磁針(GPS)〉と連動しているから、どこまでも追いかけてくる。
 〈手紙(e-mail)〉のやりとりも、これほどまでに発達した時代はなかった。地域の市役所や役場も民営化されて〈書店(Tsutaya)〉ネットワークとなり、住民票も茶(T)カードとなっている。街角のコンビニエンスストアも書店網(TSUTAYA)と一体化し、配達のために〈飛脚(Sagawa)〉が飛び交っている。会話は一四〇字に制限されて〈付け文(Twitter)〉で行われるので、俳人と歌人が何万人もの〈弟子たち(followers)〉の群れを従えるようになり〈俳歌壇社会〉が圧力団体として政界を牛耳っている。
 いまでは全てのモノが〈本〉として分類され、相互に参照し合っている。〈モノが本になる(Internet of Things)〉時代なのだ。これをIoT  -- モノのインターテキスト(Intertext of Things) -- と呼ぶ。本たちはじかにお互いに結び付き相互に〈読み合って〉いるのである。
 ときどき街角には「ゴミハウス」と呼ばれるモノが家から溢れ出す現象が観察されるが、これなども〈本屋〉が運んでくる本が机の上から溢れ出し、さらに本と本とがIoTで呼び合って、隣の家から呼ばれて来た本たちが押し寄せて、家が破壊されて、本たちが路上へ溢れ出している例である。人びとが、〈私本〉や〈賢明本〉をあまりに熟読し、歩きながら読書にふける〈二宮金治郎〉症も広がり、ぶつかりや転倒・転落の事故も頻発している。 
 さまざまな本をむさぼり読む、〈本の虫〉たちが大量群棲する〈社会昆虫網(SNS)〉が発達して、〈議論する公衆〉が陸続と登場し、「討議型民主主義」が拡がっている。知識人たちが18世紀に夢見ていた〈公共圏〉が遂に実現したといえる。

(石田英敬「新『人間知性新論』〈本〉の記号論とは何か」 より抜粋)

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