2017年4月29日土曜日

『〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生』池田純一著」書評、『日本経済新聞』2017年4月22日朝刊 21面


ITが「怪物」生む過程を記録

『〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生』池田純一著」書評『日本経済新聞』2017422日朝刊 21


 期せずして書かれた、ポスト・トゥルース(ポスト真実・ポスト真理)なアメリカの誕生記録である。「ポスト・トゥルース」という言葉、瞬く間に広まったのだが、まだ訳語がこなれない。だが、「著しく信頼や信用に欠ける情報や意見が世界に充満していることが公式見解になってしまった現代社会」の状況で、「これから相当心労の多い近未来が待っていそうだ」と言われるとすとんと腑に落ちる。
 ITコンサルタントでデザイン考案家でもある著者が、デジタル・カルチャーのトレンド誌Wiredに連載した記事を編集した一冊。リアルタイムで書き継がれていった文章をまとめているだけに、偶発的な出来事に満ちた大統領選の展開が臨場感をもって描き出されて小気味よい。
 アメリカ大統領選はいつもメディアとテクノロジーの実験場だ。政治マーケティングのウオッチャーという視点から、著者は、この一大イベントを観測しようとしていた。だが、目の当たりにしたのは、トランプ選出にいたるハチャメチャな「リアリティー・ショー」だった。800万人のフォローワーをもつトランプによる、本音トーク的ツイート、フォロワーによる拡散、バズ(噂)の拡大、テレビでの取り上げ、話題性の向上、有名性をましたトランプのさらなるツイート、以下同様・・・というメディア・サイクルの循環が、大統領選挙をハック(乗っ取)したトランプのメディア戦略だった。誰もが「巨大な炎上」を見せつけられ続けることとなった。どこまでも「セルフィー(自撮り的)」なトランプとはそのような得体の知れないIT時代の怪物なのである。
 「マスメディア」をとおして、政治とマーケティングを一致させることでアメリカ大統領選挙は進化してきたのだが、ITは、世界を完全に書き換えてしまった。「ソーシャル・メディア」という「なにかメディアのようなもの」が立ち上がってしまったからだ。マスメディアによる「公正な報道」と「消費情報の流布」という前提が崩れ、外国からサイバー攻撃をうけてオピニオンが短期波動する、「サイバーパワー」の時代に突入した。政治や経済から、世界の認識方法まですべてを考えなおさなければならない時なのである。

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