2017年3月11日土曜日

「ポスト真実の政治 情報の見極め 正念場に」『北海道新聞』コラム「各自核論」2017年3月11日(土曜日)朝刊7面

 
「ポスト真実の政治 情報の見極め 正念場に」『北海道新聞』コラム「各自核論」2017年3月11日(土曜日)朝刊7面


 いま世界では、「ポスト真実」の政治が言われ、ウソやデマをネットで拡散させることで、攻撃したり注目を集めたりする政治のあり方が急速に広まっている。
 ツイッターで真偽不明の発言をつぎつぎに拡散させる。あからさまな虚偽を「オルタナティブ・ファクト」などと開き直り、既存のニュース・メディアを「偽ニュース」と決めつけ、「人民の敵」と攻撃する。
 トランプ米大統領の選出によって現代政治の際だった特徴として認知されるようになった。アグレッシブなポピュリズムの政治は、またたくまに世界に伝染して、極右政権の誕生が懸念されるフランスでも、腐敗を指摘された大統領選候補が公然とメディアや司法を攻撃して居直るなどが起こっている。メディアに攻撃的な政治運営を進めてきた我が国の安倍政権も例外ではない。
 2000年代以後しばらくの間、各国の政治は共通したメディア政治のフォーマットをもっていた。ブッシュJr.米大統領、ブレア英首相やベルルスコーニ伊首相、サルコジ仏大統領、日本の小泉首相の時代である。冷戦後の世界秩序とグローバル資本主義への適応を基調とし(ネオ・リベラリズム)、大統領型の指導者のリーダーシップを演出するという、テレビ・メディアを主たる出口とする、政治マーケティングの手法を使った誘惑と演出のメディア政治である。
 だが、2010年代以後は、グローバル資本主義の行き詰まり(リーマンショック)、米国の覇権の後退、北アフリカ・中東での体制転覆や内戦による難民の増大、テロの拡散、グローバル化の負の側面の顕在化(格差問題、貧困化)により、袋小路のような先の見えない世界に突入した。
 その間にも、ネットは既存マスメディアを揺るがせるまでに成長し、スマホだけで情報をとる人びとが増えソーシャル・メディアが生活基盤となった。ネットのなかにいままでにない群集が登場し、マスメディアを攻撃し支持を集める極右サイトも登場しネット・ポピュリズムの土壌となった。
 テレビ政治時代のワンフレーズ・ポリティクスは、いまでは、ツイッター・ポリティクスに姿を変え、トランプ氏のように、テレビと現実との区別が曖昧なリアリティ・ショー番組で知名度をあげた人物が、行き当たりばったりのメディア・パーフォーマンスの政治家として登場した。
 最近IT技術や経済で言われる「ディスラプション(破壊的変化)」が、政治でも進行していることの現れなのだが、創造的破壊となるとはとても思えない。目の当たりにしているのは、20世紀後半以後、築かれてきた秩序、普遍的価値、国家を超えた協調の枠組み、貿易の制度が、みるみる破壊されていくことだ。

 いま、気骨ある政治と理性的なジャーナリズムがいっそう鮮明な旗を掲げることが求められている。かつてウオーター・ゲート事件でニクソン元大統領を追い詰めた、ワシントン・ポスト紙は、最近あらためて「無明の中では民主主義は死んでしまう」をスローガンに掲げた。昨年以来、米英の高級紙や国際テレビ局などのニュース・メディアは、ファクトチェック・コーナーを設け、トランプ政権の発信情報の真偽の可視化を始めた。フェイス・ブックやグーグルなども偽ニュースやデマ・サイトへの対策を考えはじめた。だれも予想できないほど混乱する政治状況のなかで、いまほどジャーナリズム精神の発揮が求められるときはない。

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