2016年8月11日木曜日

「座談会 デジタル・スタディーズへの道」(後編)

石田英敬×マーク・スタインバーグ×中路武士×吉見俊哉『UPNo.525 July 2016東京大学出版会, pp. 1-13

東京大学出版会『UP』7月号の座談会を再掲します。


 (以下の文章は『デジタル・スタディーズ』シリーズ刊行のことばです。)

 インターネット、モバイル・メディアからウェアラブル端末、ICタグまで、SNS、ブログから、動画サイト、デジタル・アーカイブ、電子図書館まで。二一世紀の人類文明は、時間と空間、行為と場所、ヒトとモノ、感性と心理、思考と判断のあらゆる次元においてデジタル・テクノロジーに媒介されて成り立つようになった。

  ルネッサンス以降の近代において、〈知〉は活字をベースとした人文知(ヒューマニティーズ)として成立してきた。そして、一九世紀後半以降、人類文化は二つの大きなメディア革命を経験した。アナログ革命とデジタル革命である。二〇世紀のメディア研究はアナログ革命を契機として生まれ、マクルーハンの『グーテンベルクの銀河系』に述べられたように、活字メディアに基礎づけられた近代以降の知を問い直す役割を担った。
  
  そして、二〇世紀後半のコンピュータの発達によるデジタル革命は知をこれまでとは別の形で問い直す認識論的衝迫をもたらしている。今日では世界のあらゆる情報がデジタル化されるにともなって、人文知も再定義へと向かい、世界の大学・研究機関では、いわゆるデジタル・ヒューマニティーズの動きが盛んである。

そこで、そうした世界的な動向を踏まえ、本シリーズ「デジタル・スタディーズ」は、デジタルなメディア文化社会事象一般を研究対象とすると同時に、デジタル技術を認識の道具とすることで、知の成り立ちを根本的に問い直し、その枠組みの組み替えをめざす「デジタル転回」による、新しい知のパラダイムを見いだそうとするものである。

 東京大学大学院情報学環では二〇〇七年に、メディア哲学のフリードリヒ・キットラー、映画批評の蓮實重彦、脳神経美学のバーバラ・マリア・スタフォード、技術哲学のベルナール・スティグレール、ニューメディア哲学のマーク・ハンセン、ポストヒューマン研究のN・キャサリン・ヘイルズ、メディア・アーティストの藤幡正樹らメディア・スタディーズの代表的な理論家たちを集めて大規模な国際シンポジウム「ユビキタス・メディア――アジアからのパラダイム創成(Ubiquitous Media Asian Transformation)」を開催した。
  この会議を契機に、東京やパリ、ロンドンなど欧米各地から集った研究者から、その後、デジタル・ヒューマニティーズの理論と実践を革新する動きが起こってきた。これらの動きは、ニューメディアの哲学、ポストヒューマン研究、ソフトウェア・スタディーズ、デジタル・カルチャー研究といった多様な呼称のもとに先進的な研究動向として国際的に繰り広げられている。さらに、スティグレール、石田英敬らは国際的に研究連携することで、新たな知のネットワークを形成するにいたっている。
  本シリーズでは、デジタルなメディア文化社会事象一般を研究対象にしつつ、過去八年におよぶこのような国際的な研究協働の成果の体系化を試みる。そして、これらの研究をここでは、〈デジタル・スタディーズ〉と呼び、メディア研究から出発したデジタル・ヒューマニティーズの理論と方法を提示することをめざす。

 メディア批判の哲学的基礎とは何か、情報コミュニケーションテクノロジーと人文科学との界面とは何か、社会と文化の知のデジタルな書き換えはどのように行いうるのか、アジアという文明からの問いはメディアに関してどのように立てられるのか、私たちの世界の遍在化するメディア環境はどのような文化的社会的実践を可能にするのか。


二〇世紀のメディア哲学、メディア批判、表象美学、映像論、記号論、メディア社会学、文化研究、都市建築研究など複数領域の系譜を〈知のデジタル転回〉の文脈で受けとめ、その先端的な知を結集し、デジタル・テクノロジーの遍在する時代における、混成的だが根源的なメディア・スタディーズの新たな方向性を提示し、新しい知のパラダイムを展望する。


  二〇一五年六月

          シリーズ編者 石田英敬/吉見俊哉/マイク・フェザーストーン

 





























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